サークルで制作した自主制作アニメーションの著作権者とその権利について
※筆者は法律を専攻していますが、あくまでも1学生に過ぎません。正確性は担保できないのでご自身で確認をお願いします。
1アニメーションの性質
アニメーションが著作権で保護される著作物に該当することは間違いない(著作権法2条1項1号)。そして一般的に映画の著作物(2条3項)に分類されると考えられる。
映画の著作物の要件は①映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、②物に固定されている③著作物である。
アニメーションは静止画が連続し、絵があたかも動いて見えるという性質を兼ね備えているから①の要件をみたす。
「物に固定されている」とは「著作物が、何らかの方法によって物と結びつき、同一性を保ちながら存続しかつ著作物を再現できる」状態をいう。したがって、物理的に媒体が存在しなくても著作物を再生できる状態であればこの要件をみたす。ゆえに、PC上でのみ保存されている状態やクラウドに保存されている状態でもこの要件はみたすのである。
そしてアニメーションが③著作物に該当することは間違いない。以上より、アニメーションは映画の著作物にあたる。
映画の著作物の著作者
映画の著作物は多数の者が関与して制作されることが多い著作物である。それゆえに、著作者が不明確な状態になりやすく混乱が生じることが想定される。そこで、法は映画の著作者を、①映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、②制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者、に限定した(16条本文)。それぞれの要件について詳しく見てみよう。
①の要件は、映画に用いられた原作小説や脚本、音楽などの著作者は映画それ自体の著作者には該当しないと述べている。
もちろん、脚本・音楽の著作者が脚本・音楽という独立した著作物ついて著作権を有する。ただ、自身が制作したこれらの著作物が映画に用いられたからといってその映画の著作権者にはならないのである。
原作が存在しない自主制作アニメの場合、問題になるのは脚本と音楽の製作者であろう。これらの製作者は①の要件により脚本それ自体や音楽それ自体の著作者にはなりうるが、アニメーションの著作者にはあたらない。
したがって、脚本・音楽の製作者はアニメの著作権を行使できない。
②の要件は映画の著作者に関わった著作者のうち著作物の全体的形成に関わった者に限定して著作物を与えると述べている。制作、監督、演出、撮影、美術等の制作において全体的形成に関与した者、すなわちアニメにおいては監督、作画監督、美術監督、音響監督、編集などが挙げられるだろう。これらの全体的形成寄与者の指示・監督に従って制作に関与した者は著作権者に該当しない。
なお、全体的形成寄与者かどうかは現実に行われた制作活動の実態に即して判断される。したがって、クレジットに名前が乗っていたとしても当然に著作権を主張できるわけではない。もっとも、法14条によって一応は推定されるので、とりあえずクレジットに従って著作権者を判断すればいいだろう。
そうすると個作以外のアニメについては著作者は複数存在することになり全体的形成寄与者全員が著作権を共有しているといえるだろう。
「映画の著作物」の特例
もっとも、映画の著作物は一定の要件を満たした場合、権利が必ずしも著作権者に帰属せず、映画製作者のみに帰属するという特則がある(29条1項)。
ここでいう映画製作者とは「映画の著作物物の制作に発意と責任を有する者」をいう(2条1項10号)。「発意」とは「企画構想・制作の意思」をいい、「責任」とは「法律上の権利義務が帰属する主体であって、経済的な収入・支出の主体になる者」をいう。サークルがこの「映画製作者」の要件をみたせば、サークルが著作権を独占できる可能性がある。
アニメーション制作にあてはめると、①アニメーション制作が特定個人の意思ではなくサークルとしての意思に基づき、②サークルの予算でアニメを制作したといえれば、サークルが「映画製作者」に該当するといえる。
(※なおサークルは法律上の「人」ではないため本来権利義務の帰属主体ではないが、法2条6項により「法人」とみなされるため著作権の権利者になりうる資格を持つ。)
では、サークルが「映画製作者」に該当するとして、いかなる条件をみたせば著作権を独占できるのか。
それは「著作者(監督等)がその映画の著作物の制作に参加することを約束している。」ことである。つまり、サークルに対して「当該アニメーションの制作に参加する」と約束さえしていれば著作権は自動的にサークルに帰属する。
そうするとサークルが製作者といえる作品で、各著作者がサークルの作品を制作するという意識を持っているといえれば、とりあえずサークルが著作権を有するといえるだろう。
もっとも、サークルにおける制作形態は流動的であるため(個作が次第にサークル作品化したような事例がありうる)、断言することはできない。したがって、サークルが著作権を有するという前提に立たずに行動した方が無難だろう。また29条の要件をみたしたとしても著作者のみに帰属する著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は各著作者に残り続ける。
著作者人格権
先述したように映画の著作者には著作者人格権が残存する。著作者人格権は公表権・氏名表示権・同一性保持権からなる。
公表権(18条)は作品を公表するかしないかを選択できる権利である。
公表とは「発行され、または上映権・公衆送信権・展示権を有する者またはその許諾を受けた者によってそれらの方法で公衆に提示された」ことをいう(4条1項)
ここでいう公衆とは不特定多数の者に限定されず、特定された多数の者(サークル関係者など)も該当する。
このような定義に照らすと、長年上映会などで上映され、あるいはサークル内で鑑賞の対象になった作品については著作者がそのような状況を想定しかつこれを容認していたといえれば、「公表」したといえる。すでに「公表」された著作物には公表権行使の余地がない。29条が適用されサークルが著作権者になる著作物については、公表に同意したものとみなされる。
よって、秘蔵の作品で個作性が認められる作品以外は公表権について注意しなくてもよいだろう。
氏名表示権(19条)は「著作者として氏名を表示するか・しないか、するとしてどのような名前で表示するか」選択する権利である。著作者の名誉を守るための権利である。
もっとも、著作者から特段の意思表示がない限り著作物の利用者は著作者がすでに表示しているところに従って著作者名を表示できる(19条2項)。したがって、クレジットを改変したり削除したりするような状況でも発生しない限り問題にはならないだろう。
同一性保持権(20条)は、著作者の意思に反して著作物の内容とその題名を改変されない権利である。著作者人格権においてもっとも問題になりやすい権利であり注意を要する。
もっとも、一切の改変が許されないわけではなく、利用の目的・態様に照らしてやむを得ないと認められる改変は同一性保持権を侵害しない(20条2項4号)。たとえば、動画配信をする場合にエンコードの問題で色彩や解像度が変化してしまう場合などがこれに該当する。
著作権者の権利
著作権者(著作者とは必ずしも一致しない)は様々な権利を一括して有する。このうちサークルのアニメを利用するにあたって問題になる権利として次のものが考えられる。下記の行為を著作権者に無断で行うと違法になる。
1.複製権(21条)
複製とは著作物を新たな有体物に固定することによって将来反復して利用できる状態にすることである。DVDやハードディスクへのコピーがこれにあたる
2.上映権(22条の2)
上映とは公衆に直接見せまたは聞かせる目的で、著作物をスクリーンに映写することである。ただし、営利を目的とせず料金も徴収しない場合は保護対象外であり、無断で上映してもさしつかえいない。
3.公衆送信権(23条)
放送や動画サイトへのアップロードなど、公衆に直接受信させることを目的とした行為である。
4.頒布権(26条)
有償・無償を問わず映画の著作物の複製物の占有を移転させる行為である。映画の著作物のみに設定された権利である。DVDやUSBメモリーなどの販売・配布・貸与が対象となる。
映画の著作物の作曲者について
先述したように映画で用いられている音楽の作曲者は映画の著作物の権利者ではない。しかし、映画は音楽の二次創作物にあたる。二次創作物の原著作者(作曲者・脚本家)は著作権者と同一種類の権利を有する。
結果的に、音楽の作曲者は著作権者と同じ権利を有することになるのである。
結論
- アニメーションは映画の著作物である。
- アニメーションの著作者は作品の全体的形成寄与者(監督・作監・美監・音響監督・撮影編集など)である。
- サークルが「映画製作者(発意+責任)」にあたり2の著作者が製作への参加を約束していた場合はサークルが著作権を独占する。もっとも、著作者人格権は著作者に残る。
- 著作者人格権については同一性保持権、著作権については複製権・上映権・公衆送信権・頒布権などについて注意を要する。
- 作曲者も二次創作物の原著作者としてアニメに対して権利を有する。